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J. S. Bach

※1

 バッハはモテットを何曲書いたのか、今まで多くの学者によって研究されてきたが、いまだ真偽ははっきりしない。管弦楽を伴うカンタータと異なり、モテットを「器楽が独立したパートを持たず、多声部で書かれた声楽曲」と定義するならば、この形式で書かれており、かつ明らかにバッハの作品である、と言えるものはBWV   225から229の5曲である。しかしBWV230も含む6曲や、それにBWV118とBWV Anh.159を加えた8曲とする場合もある。

 またこれらの中で、成立の目的がはっきりわかっているのは<Der Geist hilft unser Schwachheit auf BWV226>のみであり、今回演奏する2曲を含む他の楽曲は未だ推測の域を脱しない。音楽学者のクリストフ・ヴォルフによれば、モテットは聖トマス教会聖歌隊の技術向上のための練習曲として書かれた、との見方もある。

 楽譜はアカペラで書かれているが、18世紀当時の習慣として、演奏の際には何らかの楽器が声楽パートをなぞっていた、と考えられている。

 モテットはバッハの作品群の中では小規模なものが多いが、いずれも死、罪、生きる苦悩や喜び、永遠の安らぎ、といった、すべての人間の生き方にかかわる本質を内包している。ゆえに、これらのモテットはきわめてキリスト教的、ルター派経験主義的でありながら、同時に宗教や時代を超えた普遍性を持ち、現代まで色あせることなく演奏されている、といえるだろう。

(※1)BWV=:バッハ作品番号。ヴォルフガング・シュミーダー(独)によって整理されたバッハ作品目録のリストに付された通し番号。

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3rd Stage

Jesu, meine Freude BWV227

 この5声のモテットは全部で11曲からなり、6曲のコラールと5曲の聖句部分を持つ。コラール部分はJohann Frank (1618-1677) 作詩、Johann Crüger (1598-1662) 作曲のコラール<Jesu, meine Freude イエス、わが喜び (1653)>の6つの節が使われる。奇数楽章にはこの当時親しまれていたコラールのヴァリエーション、偶数楽章には、新約聖書の『ローマ人への手紙』第8章のテキストにバッハが作曲したものが、交互に置かれている。

 これらはまた、5声フーガで書かれた第6曲「Ihr aber seid nicht fleischlich しかしあなた達は肉にある者ではなく」を中心軸としたシンメトリーを構成しており、バッハの好んだ十字架的配置となっている。

 

 コラールの旋律は、心の底から絞り出すような、苦悩のe mollで書かれている。イエスへの憧れと、絶対的な信頼が熱く歌われ、6曲通して苦難の果ての希望を思わせる。

 対して聖句テキストにおいては、人間の弱さゆえの罪、肉の欲と、キリストにあるものの義と救いが対比されて語られる。この対比は曲の中でもはっきりと書き分けられている。音楽修辞学を駆使した表現も随所に見られ、言葉の内容をより鮮やかに描いている。

 コラールと聖句部分は互いを深めあいながら進んでいく。バッハの揺るぎない信仰と統一された精神から作り出された音楽は、聴く者を超え、至高の存在へと捧げられるのである。

森ミスト

1 [Choral:1]

Jesu, meine Freude,

meines Herzens Weide,

Jesu, meine Zier,

ach wie lang, ach lange

ist dem Herzen bange

und verlangt nach dir!

Gottes Lamm, mein Bräutigam,

außer dir soll mir auf Erden nichts sonst Liebers werden.

 

2

Es ist nun nichts Verdammliches an denen,

die in Christo Jesu sind,

die nicht nach dem Fleische wandeln,

sondern nach dem Geist.

 

3 [Choral:2]

Unter deinem Schirmen bin ich vor dem Stürmen aller Feinde frei.

Lass den Satan wittern,

lass den Feind erbittern,

mir steht Jesus bei.

Ob es itzt gleich kracht und blitzt,

ob gleich Sünd und Hölle schrecken:

Jesus will mich decken.

 

4

Denn das Gesetz des Geistes,

der da lebendig machet in Christo Jesu,

hat mich frei gemacht

von dem Gesetz der Sünde und des Todes.

 

5 [Choral:3]

Trotz dem alten Drachen,

Trotz des Todes Rachen,

Trotz der Furcht darzu!

Tobe, Welt, und springe,

ich steh hier und singe in gar sichrer Ruh.

Gottes Macht hält mich in acht;

Erd und Abgrund muss verstummen,

ob sie noch so brummen.

 

6

Ihr aber seid nicht fleischlich, sondern geistlich,

so anders Gottes Geist in euch wohnet.

Wer aber Christi Geist nicht hat,

der ist nicht sein.

 

7 [Choral:4]

Weg mit allen Schätzen!

Du bist mein Ergötzen,

Jesu, meine Lust!

Weg ihr eitlen Ehren,

ich mag euch nicht hören,

bleibt mir unbewusst!

Elend, Not, Kreuz, Schmach und Tod

soll mich, ob ich viel muss leiden,

nicht von Jesu scheiden.

 

8

So aber Christus in euch ist,

so ist der Leib zwar tot um der Sünde willen;

der Geist aber ist das Leben um der Gerechtigkeit willen.

 

9 [Choral:5]

Gute Nacht, o Wesen,

das die Welt erlesen,

mir gefällst du nicht.

Gute Nacht, ihr Sünden,

bleibet weit dahinten,

kommt nicht mehr ans Licht!

Gute Nacht, du Stolz und Pracht!

Dir sei ganz, du Lasterleben,

gute Nacht gegeben.

 

10

So nun der Geist des,

der Jesum von den Toten auferwecket hat,

in euch wohnet,

so wird auch derselbige,

der Christum von den Toten auferwecket hat,

eure sterbliche Leiber lebendig machen

um des willen,

dass sein Geist in euch wohnet.

 

11 [Choral:6]

Weicht, ihr Trauergeister,

denn mein Freudenmeister,

Jesus, tritt herein.

Denen, die Gott lieben,

muss auch ihr Betrüben

lauter Zucker sein.

Duld ich schon hier Spott und Hohn,

dennoch bleibst du auch im Leide,

Jesu, meine Freude.

1

イエスは私の喜び

私の心の牧場

イエスは私の誇り

ああ、なんと長く なんと長く

心は不安で

あなたを必要とし求めたことでしょう!

神の子羊 私の花婿よ

私にとってあなたより大切なものは

この世にはないのです

 

2

キリスト・イエスの内にある者は

もはや永却の罰をくだされることはありません

彼らは肉体によって従ってさまよい歩くのではなく

霊によって生きるのです

 

3

あなたの傘のもとで私はすべての敵の攻撃から守られています

サタンよ 嗅ぎつけて寄ってくるがいい

敵どもよ 怒りくるうがいい

イエスは私のそばに立っていてくださる

たとえ今雷鳴がとどろき稲妻が走ったとしても

たとえ罪と地獄が私をおびやかしたとしても

イエスは私をかばい守ってくださる

 

4

それは霊の法則

すなわち、キリスト・イエスにおいて命を与えるその法則が

罪と死の法則から私を解放したからです

 

5

老いたドラゴンに抗え

死の淵に抗え

それによってもたらされる死の恐れに抗え

荒れ狂え 世界よ 飛び散れ

ゆるぎない平安の内に私はここに立ち歌う

神の御業は注意深く私を守っている

この世も地獄の深淵も沈黙せねばならない

例えそれらがなおうなり声をあげようとも

 

6

あなたがたはしかし 

肉によってではなく

霊によって支配されるものです

神の霊があなたがたの内に宿っているなら

しかしキリストの霊を持たない者は

彼の者ではないのです

 

7

すべての財宝を捨ててしまえ

あなたは私の楽しみ

イエスよ 私の喜びよ!

去れお前 空しい名誉よ

私たちはお前たちに耳を貸さない

私は何も知らないままでいよう

悲惨さ、困窮、十字架の苦難、屈辱、そして死も

たとえ私がたくさんの苦しみを受けなければならないとしても

私をイエスから引き離すことはできない

 

8

しかしながら キリストがあなたの内にいるのであれば

肉体は罪のために死ぬことになっても

霊は義によって命となるのです

 

9

さようなら この世が選んだ本質よ

お前は私の求めるものではないのだ

さようなら 罪の数々よ

遠くのかなたに留まり

もはや光があたることはない

さようなら お前 高慢で飾りたてた心よ

罪多き生活よ 

お前とは完全におわかれだ

 

10

それゆえ その方の霊が

つまりイエスを死者の中からよみがえらせた方の霊が

あなた方の内に宿っているなら

その同じ方 キリストを死者の中からよみがえらせた方が

あなた方の死すべき定めの肉体も生かしてくださいます

それはこの方の霊があなた方の内に宿っているからです

 

11

去れ 悲しみの心よ

私の喜びの師であるイエスが

私の心の中に入ってこられる

神を愛する者たちよ

あなた方を悲しませることもまた

甘美なる喜びとなるに違いない

私はすでにこの世で嘲りや屈辱に耐えているが

それでもその悲しみの中でさえも

イエスよ あなたは私の喜びであり続ける

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